少年の部について
1994年から少年部の指導に携わり、現在までに海外を含め数道場で1000名を超える子供達を指導してきました。
多くの子供たちを見てきて、時代の流れとともに、子供達の質も変わってきているように感じています。昨今の国際社会における日本の地位の低下や雇用情勢の悪化など、子どもたちの置かれている状況は非常に厳しいです。
今の子供たちを見ていると、与えられる事、教えられる事、守られる事に慣れすぎているように思います。“若いうちの苦労は買ってでもしろ”と言う言葉がありますが、現代では若いうちの苦労が、あまりに出来ない時代だとも言えます。
失敗を恐れ挑戦しない、あるいは負けを恐れて挑戦しない子が多く、こうした状況を間近で見ていると挑戦しないことが既に失敗であり、負けなのではないかと感じてしまいます。
目先の結果に拘り、上に伸びようと焦るがあまり、表面的な部分を追い求めてしまいがちです。子供の内は挑戦し、挫折と成功を味わいながら、芯のある強さ、逞しさを身につける事で目に見えない部分を育て、大きく根を張ることが必要です。大きく根を張った分だけ自然と上に伸びていくのだと思います。
一方で、子供達の有り余る能力・可能性を感じ、成長していく姿も沢山見てきました。生徒の中には、チャンピオンを目指す子、家庭や学校で問題を抱えている子、体に障害を抱えている子、病気を抱えている子、心の問題を持つ子、様々な子供たちが通っています。稽古を通して生徒一人一人が目標達成・問題解決していけるように取り組んでいます。
指導において心がけること
・基本に忠実な指導。敢えて多くを教えすぎない。教えては問いかけ、自ら考え、発見させるように心がけています。
・空手の動きのみならず、様々な動きを取り入れ、総合的な基礎体力の向上を心がけています。
・自立心を育てる。自分で出来る事は自分行い、言うべきことは自分で言えるように、心がけています。
・子供達の将来を見据え、『一勝よりも一生』を大事にした指導を心がけます。
・先輩後輩の縦社会の中で、上級者が後輩の面倒をみることで、自覚と責任感、相手の立場になって考える場面を作るように心がけています。
武道と言えども子供のうちは、親御さんの協力が必要不可欠です。親御さんと一緒になって武道を通した教育を行っていきたいと思います。
礼儀について
道場訓にも『礼節を重んじ』という一文が含まれており、空手を習わせる動機として、『礼儀を身につける』事が多くの親御さんの希望でもあります。道場では礼節の指導を徹底しています。日ごろの挨拶や返事、合宿などではお箸の持ち方や食事のマナー等をみる事もあります。
ご家庭においても、まずは親御さんが言葉使いや礼儀に気をつけ、お手本になって頂きたいと思います。
ご家庭での練習
ご家庭での練習は親子のコミュニケーションにもなっているようです。
しかし空手の動作は、基本・移動・型・組手、全て経験に基づいた指導の下、正しい動きを順序を追って時間をかけて身につけていくものです。
また、子供達には義務教育である学校があり、宿題、友達と遊ぶ、他の習い事等があって更に練習をやらされると、自主性が損なわれ、更には空手を嫌いになり、過度のプレッシャーを感じる事になります。
それはお父さんが会社から帰って来て、また休みの日に更に仕事をやらされたり、お母さんが休む間もなく家事をやらされることと変わりありません。子供が自主的に練習に取り組むようになった時に、是非お手伝いしてあげてください。
試合について
極真空手には創始者大山倍達総裁の『実戦なくんば証明されず、証明なくんば信用されず、信用なくんば尊敬されない』という教えがあります。
試合という実戦を経験することで、多くのことを学びます。勝負である以上勝ちに拘って稽古を積み、試合に挑みます。そしてその結果に一喜一憂するのではなく、勝者となった子が客観的に反省を取り入れ、負けた子を心から励ます。敗者となった子はその結果だけを踏まえて挫けてしまうのではなく、負けた悔しさを飲み込み、事実を受け入れ、反省材料にし、自分に勝った子を賞賛する、ということが大切です。
ものの本質とは、短期的、表面的な評価ではないということを、試合を通して伝えていかなくてはいけないと思います。勝ち負けで他人は評価するかもしれませんが、その人、その子の本当の価値は変化しません。チャンピオンになるにしても、その他人から与えられたタイトルや肩書き自体に本当の価値があるのではなくて、チャンピオンになることを自分に課し、そのハー ドルをクリアーしたことに真の価値があると思います。
是非多くの子供達に試合を経験してもらいたいと思います。



2003年11月24日、新横浜・岩崎学園1号館にて、東京大学大学院、石井直方教授による講演【ジュニアスポーツの為の筋力トレーニング】【空手に秘められた知られざる魅力】が行われました。
その内容を以下にまとめ、ご紹介します。
ジュニア期のトレーニングの重要性
①動き作り(神経系)
②スタミナ作り(代謝系)
③パワーアップ(筋肉)
幼い時期は神経系の発達の早さに合わせて体の動きを作り、代謝系はそれに少し遅れて発達するので、次にスタミナ作り、筋肉は遅れて発達するので、パワーアップは、一番最後(背が伸びきった時期以降)で良い。
スポーツをする人は、筋力向上→ケガの防止→良質な技術練習→スキルアップの好循環を目指す。
ジュニア期の筋力トレーニングのキーポイント
①基本筋力を養成する
体幹部分の筋力を鍛える→大腰筋・腹筋・背筋など
成人で大腰筋が弱い人には、一般的に、猫背・腰痛・冷え性・肥満などの症状が多く見られる。
大腰筋は成長期にどういう生活をさせていくかで、発達の度合いが異なる。
②過大な負荷を使わず、筋肉をよく動かす。
スクワットなどは、子供やお年寄りにも良い。(ゆっくり・持続的に・休みは短く)
③自分でリズムを作らせる。
受動的ではなく、自分の感覚でリズムをつけさせる。筋肉だけではなく、脳にも関係する。
俗にいう「キレる」人は、セロトニン神経を高める必要がある。
例、腹式呼吸を行う(1分間にゆっくり5回程度)、よく噛む、お手玉など
セロトニン神経が高まると、中枢神経系は、運動神経が活発化され、集中力が高まる。身体的効果としては、「ボケ」「キレ」の防止に効果があると考えられている。
空手道と心身の健康作り
以上の内容から見る、空手の稽古の効果
①腹式呼吸で気合を入れる
②自分で呼吸のリズムを取りながら動く
健康面だけでなく、落ち着いた心を作る事を助長する
③前屈立ち,騎馬立ちなど空手特有の身体の使い方
持続的な筋力の発揮は,過大な負荷が少なく、子供のトレーニングに適している。
④蹴りの動作
骨盤周辺の筋群+大腿四頭筋+背筋群を使い、日常生活でも必要とされる部分を鍛える。
(現代の子供たちが弱くなってしまっている部分でもある)
⑤突きの動作
骨盤周辺の筋群+リズムを作って体を使うことは、脳に良い刺激を与える(セロトニンの活発化など)
⑥正座・黙想
姿勢をつくる